一、礼式

居合道でも、剣道と同じく礼法を厳しく重んずるものである。 この礼法を重んずることにより、自らを正し、秩序を正し、 そうして相互の人格を尊重しながら一心不乱に精進するものである。 古語に、「武道は礼に始まり礼に終わる。」と言われる所以である。 そうしてまたこの礼式は、何れの場合でも真に心の底から礼法を 実践しなければならない。礼にほ立礼と座礼がある。

1. 立 礼
演武に際し、神殿・玉座に対する礼であって、演武の 始めと終わりに直立体の姿勢で行うものである。先ず、 下げ緒の末端三分の一の所を、左手の中指と人差指ではさんで (小指と薬指の間でも可)ワサとしたまま、左手で刀の鍔元を持ち、 母指を軽く鍔にかけて刃を上にし、刀身を後方に、鐺を少し斜め下にして 左腰(腰骨の所)の所に保持する。次に、左腰に保持した刀を そのまま少し右前方に出し、右手の中指と人差指の間に左手保持の 刀緒を移し取り、 (小指にかけるよう移し取っても可) 刀を内側より刀背の方を右手で鍔元を逆手に取り、人差指を軽く伸ばし、 刀柄を後方に鐺を前下にして、右手の肱を軽く伸ばして体の右側に軽く接するように 刀を提げ礼の姿勢となる。但し、この方法は古流の一方法であり、且つ刀柄が袂に かからない仕業のものである。師によっては種々な仕方を工夫され、また、 制定居合の礼式のように特に定められた方法もあるので、個々によく研究されて、 時宜に即した方法を選ぶことが大切である。
2. 座 礼
(イ)刀に対する礼法
演武の始めと終りに行う礼であって、始礼・終礼とする。
始礼は刀と一体となって、円満に誠心誠意演武することを誓うものであり、 終礼は刀に対し、無事に演武出来たことを感謝すると共に、将来一層修練を誓う礼である。 (演武に対する作法参照)

(ロ)教えを受ける礼
師や先輩等、苟も教えを受ける者に対する時は、下座に座って、 体に近く右側に刃を内にし、概ね鍔を膝の線に揃えて床上に置き、 両手を揃えて座礼をする。
3.神前並ぴに上座への礼
昭和二十年までは、必ずといってよい程道場には神殿を設け、 武の神を祭って心正しく演武を行ったものである。 終戦後は、世の推移につれて神に対する観念が変わり、 道場にも神殿を設けないようにもなったが、最近はまた、 修業の場として神殿を設け、或いは神殿の代わりに日の丸を 掲げるようになっている。然しながら道場に入る時は、 真剣に「修練します」と、無念無想の間にも何か祈るような心持ちになるものである。 これが道場での神に対する修練者の真心のように思われ、この真心によって、 厳粛に修練する上にも心のより所として、神殿は我々に欠くことの出来ないものと考えられる。